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    盛子は時々半ば無意識に呟いた。

    正文は顎をつき出しては一寸笑つて、ふむ、ふむ、とひとりでうなづいていた。

    「さうか、惜しかつたな」

    「今日は士曜日で、半休だからね」

    上下のシャツだけといふ奇妙な恰好で房一が台所に降りかけた時、はじめて彼はそこに誰か立つているのに気づいた。

    「何んにも訊かんといて下さい。ちよつと間違ひが起きたんやで、――それは、後でお話しますわ――とにかく、手当を頼みます」

    彼はもう少しで最も善い友人に向ふやうに考へごとを打ち明けるところだつた。

    それは房一がこれまでに漠然と想像していた練吉とはかなりにちがふものだつた。以前見かけた練吉の学生服姿、その良家の子弟らしいつんとした近づき難さは、どこかにのこつていたが、或る柔い、善良さが今の練吉からは感じられた。

    と、さつき目にもとまらぬ速さで腕にさはつたときと同じく、軽くすつと身をひくやうにしたかと思ふと、もう背を向けてそゝくさと葭子張りの便所に入つて行つた。――

    そこへ房一が帰つて来たのだ。盛子は横坐りの所を見られまいとして慌てて立上つた。

    日は高く上つて、噎むせるやうな温かい空気が、時々、風の工合で河原の方からやつて来た。徳次も切り上げて来た。三箇の魚籠びくを中にして、頭を並べて獲物を見せ合つた。

    と、いきなり云つた。

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