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    「さあね、もうかれこれ二十年にもなるだらうかね」

    「いや、どうも。恐縮です」

    「はあ、いや。もう手前どもは老いぼれ同然ですからな」

    ふいに冷気が盛子の咽喉もとから胸の中へしみこんだ。その時、夢の中でよくつかめないながらも何か急に閃ひらめき過ぎる考へのやうに、これが結婚といふものか、これが仕合せといふものか、といふ思ひがどこからともなくやつて来た。しかもそれは考へた瞬間にさつと身をひるがへして去り、だが印象だけは強くのこる、あの微妙な閃きだつた。

    「御焼香を。――どうぞ、お近いところから御順に」

    読経がはじまつた。皆話をやめてその方を向いて坐り直した。

    「や、ありがたう」

    「まだなかなかでせう。永いこつてすよ」

    うまい工合だと感じた房一はすかさず云つた。

    そして、少し横手に身をひきながら、しげしげと房一を眺めた。感慨無量、と云つた態ていであつた。

    正文はその傍に近づきながら、他の用事で来たついでのやうに云つた。

    そして、徹夜の仕事を連続していると、視神経の疲れが何よりの悪刺戟になることがのみこめてくる。もっとも、私は強度の近視のところへ、遠視が加わったから、メガネをかけても外してもグアイが悪いのである。それがメガネのツルを支えている鼻梁の疲れを代表者として頭の廻転に鈍痛を加えてくるのである。

    さう云ひながら一寸横目で自分の膝のわきに据ゑたずつしりと厚味のある榧かやの碁盤を眺めた。

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