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    私はもともとヌル湯好きで、いつまでつかっても汗のでない程度が好きだ。

    「ほう、この家鴨あひるの嘴みたやうな金具は、こりや何かな。ほう、こりやよく光る小刀だな。こんなに何本も何に使ふのかな」

    練吉は永い間黙つていた。それから、いかにもいやいやな調子で、

    練吉は路の傾斜のために自然とずり下りかけた自転車を引き上げようとして身体を動かした。そのはずみに、彼の横顔が房一のすぐ鼻先きにぐつと近づいた。練吉の頬はきれいに剃刀かみそりがあてられ、もみ上げから下の青味を帯びつるつるした皮膚にはこまかい汗がにじみ出ていた。そのとき房一は思ひがけなく練吉の匂ひを、髪や香油のそれではなく、何か練吉その人の匂ひを嗅いだ。

    「いや、わしは出んぞ」と叫んだ。

    又とぎれた。

    さう呟くと、小谷は追鮎の力を試すやうに竿を高く上げてみた。彼のきいきい云ふ金属性の声は、こんなひとり言のときでも絶えず房一に向つて話しかけたがつているやうであつた。

    「これはどこに置きますかね、この漬物桶は。――はい、はい。どつこいしよ、と」

    「これから又お出掛けかね」

    房一には連れが二人あつた。

    「眼が潰つぶれちまふ――ねえ、先生」

    と、大声で云ひ聞かせた。

    「やあ、君か」

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